札幌高等裁判所 昭和28年(く)6号 判決
本件記録によれば、被告人等はいずれも爆発物取締罰則違反、公務執行妨害、傷害罪によつて札幌地方裁判所小樽支部に起訴され被告人氏名不詳三号こと富井誠、同氏名不詳七号こと高橋孝子は昭和二十七年七月十九日に、被告人氏名不詳一号こと池田一夫、同氏名不詳二号こと中島正利、同氏名不詳四号こと武藤和三郎、同氏名不詳五号こと大原英夫、同氏名不詳八号こと寺井勝夫は同年八月七日に、被告人氏名不詳九号こと大橋達は同年八月十二日に、被告人氏名不詳十号こと向坂公夫は同年十月十日に、被告人氏名不詳十二号こと長尾陸奥雄は昭和二十八年二月十三日に、被告人氏名不詳十三号こと福沢嘉子は同年二月二十一日にそれぞれ勾留され、昭和二十八年三月十六日第一回公判期日以来昭和二十八年六月三十日第五十回公判の審理を終り同日同裁判所から保釈許可の決定を受けたものであること、本件起訴状には、訴因として爆発物取締罰則第一条に該当する事実が明にされ且右訴因に対応する罰条にも爆発物取締罰則第一条と明記されていることが認められるのである。従つて他の要件を考えるまでもなく、本件保釈の請求は刑事訴訟法第八十九条により保釈を許さなければならない場合、いわゆる必要的保釈――権利保釈には該当しないものと言わねばならない。そこで進んで、保釈を許すのを適当とする事由があるか否かを考えるに、爆発物取締罰則違反の訴因事実が今までの立証経過により、その事実がないとの見込がたてば他に保釈をさまたげる事由がない限り、保釈を許すのが適当であろう。この点について記録を調べると既に鑑定人山本祐徳の鑑定書が取調べられているが、同人の証人としての尋問及び鑑定人村井輔永の鑑定手続は未だ終了していない。それ故右の証拠調の結果を待たず今直ちに保釈を許可するのは適当とはいえない。そのほか保釈を適当と認めるに足る事由は見当らない。
次に被告人等の勾留期間が本件審理の経過と照し合せて不当に長きに亘つているかどうかについて調べてみるのに、被告人中最も長期間勾留されているものは前記のように被告人氏名不詳三号こと富井誠、同氏名不詳七号こと高橋孝子の両名であつて本件保釈決定までに十一ケ月余日を経過しているところ、本件は起訴された者合計十四名であつてその中被告人土方弘を除いては犯罪事実は勿論氏名及び住居をも黙否しているので公判における審理も必ずしも順調とはいえないのであるが、第五十回公判期日までに取調べを終了した証人数は延合計百十二名であり証拠書類、証拠物の取調べも又多数に達しているのである。而してその間おゝむね集中的に審理が重ねられていて次回公判期日までに月余を経過したのは裁判長たる裁判官が更迭した場合の第三十六回公判と第三十七回公判との間の一回だけである。これらの点を考察すると、本件を集団犯罪として起訴され、本件内容も相当複雑なものがある本件事案と前記審理の進捗状況とを対照するに、現在迄の被告人等の勾留に拘禁が不当に長くなつたと認め得る点は存しない。
結局いずれの点よりするも被告人等に対し保釈を許容すべき理由は認められず、刑事訴訟法第八九条一号の場合に該当するものとして尚勾留を継続すべきものとするのが正当であるに拘らず被告人全員の保釈を許可した原決定は失当であるから当裁判所は右決定を取消しさきになされた弁護人請求の本件保釈請求は却下すべきものとする。